【高校化学】物質量[mol]の意味と使い方
物質量とは??
今回は高校化学で必ず登場する物質量について紹介します。 化学基礎は文系の人でも習う場合がありますので、 $\mathrm{mol}$という単位を知っている方も多いと思います。 しかし分子や原子を1つ1つは目には見えないため、 物質量関係の計算を進めていく中で「結局なにやってんの??」となってしまうことも多いのではないでしょうか。

物質量を解説する前に、まずは相対質量や原子量の基本から触れていこうと思います。

相対質量と原子量
まずは相対質量についてですが、 厳密な定義は「$^{12}{\mathrm C}$原子1個の質量に対する比の12倍」となります。 元素記号の左上にある数字が相対質量です。 中性子と陽子は目に見えないため、直接数えることはできません。 なので定義の上では「炭素原子$^{12}\mathrm{C}$と比較して、どのくらい重いのか」と考えます。 ちなみに、原子核の周りにある電子は、陽子や中性子と比較して十分に軽いため無視します。

ですがこれは少しややこしいので、初めは
「相対質量=中性子と陽子の合計の数」
と考えてもらって差し支えありません。 例えば水素なら原子核は陽子1コのみからできているので、相対質量は1となります。 酸素なら陽子が8コ中性子が8コなので相対質量は16です。

続いて原子量についてですが、原子量と相対質量の違いを理解するためには、 同位体について知っておく必要があります。

水素を例にとってみると、原子核が陽子1コのみからなる「軽水素」の他に、 中性子も1個含む「重水素」や中性子を2コ含む「三重水素」と呼ばれる原子が、 ごく微量ながら($0.02\%$以下)存在します。 核融合炉の燃料として有名ですが、こういった、
「陽子や電子の数は同じで、中性子の数だけが異なるもの」を同位体と呼びます


別の例として塩素が有名です。全体の塩素原子のうち、 約$75\%$は$^{35}\mathrm{Cl}$で残りはほとんど$^{37}\mathrm{Cl}$です。

こうなった場合、$^{37}\mathrm{Cl}$の存在が無視できなくなりますので原子量を使います。 原子量は
「同位体の存在比を考慮した相対質量の平均値」
です。

$100$コの塩素原子のうち$75$コの相対質量は$35$、$25$コは$37$と考えると、

\begin{eqnarray*} 「\mathrm{Cl}の原子量」&=&\frac{35\times 75+37\times 25}{100}\\ &=&35.5 \end{eqnarray*}

となります。水素など同位体がほとんど存在しないものは「原子量=相対質量」として問題ありませんが、 中には塩素のように、同位体の存在を無視できないものも少数ながら存在します。 元素の化学的な個性は中性子ではなく陽子や電子の数、 特に原子の一番外側を回る電子の数(最外殻電子数)に大きく左右されるで、 高校化学では原子量として、同位体は全て同じものとして扱うことがほとんどです。

色々と複雑なことを言ってきましたが、
$\mathrm{mol}$を理解するだけなら「原子量=陽子と中性子何個分?」と考えても大丈夫
です。 当たり前ですが、相対質量や原子量の定義について問われている問題ではしっかりと定義に基づいて考えてください!

分子量や式量といったものもありますがこれらも難しく考えなくて大丈夫です。 例を挙げた方が分かりやすいと思います。原子量はそれぞれおよそ $\mathrm{H}=1, \mathrm{O}=16, \mathrm{Cu}=63.5$ですので、

\begin{eqnarray*} \mathrm{H}_2\mathrm{O}&=&1\times 2+16=18\\ \mathrm{CuO}&=&63.5+16=79.5 \end{eqnarray*}

と計算できます。分子式や組成式に登場する原子の原子量を全部足せばよく、 「陽子と中性子何個分か」という意味では原子量と大差ありません。

   ・元素記号→原子量
   ・分子式→分子量
   ・組成式→式量

と考えてください。原子量、分子量、式量の扱い方はほとんど同じです。

物質量=何箱分か
いよいよ物質量の説明になりますが、大前提として化学反応式には「個数」についての情報がかかれています。

\begin{eqnarray*} \mathrm{C}+\mathrm{O}_2\longrightarrow \mathrm{CO}_2 \end{eqnarray*}

という化学反応式は「炭素原子1コと酸素分子1コから二酸化炭素分子が1コ出来る」ということを表しています。 しかしこれだけでは実験するときに困ったことになります。 実験室で測り取れるのは「質量」であって「個数」ではないため、 化学反応式から、「炭素と酸素1コずつあれば二酸化炭素も1コ出来るよ!」と言うことが分かっても、 これを確かめるすべがなく、あまり意味がないのです。

電子天秤などで炭素を$1\mathrm{g}$測り取ることは出来ても、炭素原子1粒を取り出すことはできませんし、 酸素や二酸化炭素に至ってはそもそも重さを測ることすら難しい場合が多いです。 なので、例えば「炭素$1\mathrm{g}$って分子何コ分?」という問いに答えられるような、
「質量」と「個数」を橋渡しする方法が必要
になります。

ここで登場するのがアボガドロ定数と物質量です。 アボガドロ定数は普通$N_A$で表しますが、具体的には

\begin{eqnarray*} N_A=6.02214076\cdots \times 10^{23}コ \end{eqnarray*}

という「個数」です。何の個数かというと、
「これだけ集めてくると原子量(や分子量、式量)と同じ質量になるよ」
という個数です。つまり

   ・水素原子$\mathrm{H}$(原子量$1$)を$N_A$コ集めてくると$1\mathrm{g}$になる
   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)を$N_A$コ集めてくると$32\mathrm{g}$になる
   ・水分子$\mathrm{H}_2\mathrm{O}$(分子量$18$)を$N_A$コ集めてくると$18\mathrm{g}$になる

といった具合です。目に見えない原子や分子をこういった「$N_A$コの集まり」で考えると便利なので
$N_A$コの集まり1つを1$\mathrm{mol}$と表記し、これを物質量と呼びます
。例えば、

   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)$1\mathrm{mol}$は$32\mathrm{g}$
   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)$2\mathrm{mol}$は$64\mathrm{g}$
   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)$10\mathrm{mol}$は$320\mathrm{g}$

という感じです。分子量と$\mathrm{mol}$数を掛け算すれば質量になります。 分かりにくければ「$\mathrm{mol}$」を「箱」に書き換えてください。

   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)$1$箱は$32\mathrm{g}$
   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)$2$箱は$64\mathrm{g}$
   ・酸素分子$\mathrm{O}_2$(分子量$32$)$10$箱は$320\mathrm{g}$

分子量と箱数を掛け算すれば質量になります。 みかんが詰まった大きな段ボールひと箱が$32\mathrm{kg}$なら、 $10$箱は$320\mathrm{kg}$ですよね。これと同じことです。 ひと箱に入っている分子の個数がアボガドロ定数です。

これを利用すると、物質を「ほしい個数分だけ」測り取ることができます。 例えば水素を燃やして水を$180\mathrm{g}$作りたいとします。

\begin{eqnarray*} 2\mathrm{H}_2+\mathrm{O}_2\longrightarrow 2\mathrm{H}_2\mathrm{O} \end{eqnarray*}

これは水分子$10\mathrm{mol}$分ですので、化学反応式から水素分子$10\mathrm{mol}=20\mathrm{g}$、 酸素分子$5\mathrm{mol}=160\mathrm{g}$、必要であることが分かりますね。 個数の比率でいうと水素$:$酸素$=2:1$ですが、 質量で考えると(分子の重さが違うため)、水素$:$酸素$=1:8$となるわけです。

実際には気体の場合は質量を測りにくいですから、 気体の体積と物質量が比例することを利用すると思います。 気体の場合粒子の間隔が広すぎるため、粒子の大きさの違いは考えなくてもいいですから、 「0度$\ $1気圧(標準状態と呼びます)の気体の体積は必ず$22.4\mathrm{L}$」 になります。 例えば酸素$5\mathrm{mol}$必要なら、$22.4\times 5=112\mathrm{L}$用意すればいいことになります。

どちらにせよ体積や質量といった測定可能なものを、 化学反応式と一緒に利用するためには、 上記のような「物質量に変換する」計算が必要なわけですね。

用語まとめ
今回の話をまとめると、次のようになります。

原子量、分子量、式量$=$陽子と中性子何個分か(ちょっとウソ)

粒を$N_A$コ集めてくると$1\mathrm{mol}$になる

粒$1\mathrm{mol}$の質量はその原子量、分子量、式量と同じ

$0\mathrm{C}^\circ\ 1$気圧の気体の体積は必ず$22.4\mathrm{L}$


ただし相対質量と原子量は別物ですし、 両方とも厳密には「陽子と中性子何個分か」ではありませんので、これには気をつけてくださいね。 物質量に限らず化学には公式が多数登場しますが、 結局は算数の割合で理解できる場合が多いです。 丸暗記に走る前に、その内容を理解しておきましょう。